気まぐれダイアリー

ジャズ・ピアニストとの出逢い

8年ほど前、「自分はジャズピアニストだ」というかたから
体験レッスンの申込みをいただきました。

…ん、なんで?

通常、メールでやりとりするのですが
「なんだか怪しい。冷やかしかしら?」と疑い、電話をかけてみたところ、
「クラシック音楽が大好きなんだけれど、自分が弾くと
なんでもジャズみたいになってしまう。
好きなモーツァルトやベートーヴェンの曲を
美しく弾けるようになりたいから、是非教えて欲しいんです」ということ。

ご自身でも、ジャズピアノ&ボーカルの教室を開いていて
レッスンをしているということだったので
「ん~~、なんだかやりにくいなぁ  」と、気が進みませんでしたが
とりあえず一度いらしていただくことにしました。

その男性は、スラ~っと長身、短髪にベレー帽をかぶり
白いロングコートを颯爽とひるがえしやって来ました 

まぁ~、ナント派手な

それもそのはず。
渋谷のシアターコクーンで、ピアニスト 兼 役者として
舞台に立った経験も持つような方でした。

ご自身で作曲をしてCDを出したり
ライブなどにも定期的に出演されていたりしたので
どのぐらい本気にクラシック音楽を勉強したいと思っているのか・・?
だいたい、そのレベルの人にどんなレッスンをすればいいのか・・・?
少々不安になりましたが、演奏を聞いて「なーーーるほど!」と納得。

確かに、音のひとつひとつがはっきり立って
小気味のいい音は出るものの
クラシック音楽の基礎とはちょっと違う感じです。

そして、コード記号などをもとに即興演奏がベースのジャズと
楽譜の音符ひとつひとつを正確に読み、作曲家のスタイルや
曲の背景を考えながら演奏を仕上げていくクラシックとでは
根本的に「演奏」へのアプローチが違うということを
改めて感じさせられました。

ピアノを弾くということに関しては、
しっかり自分のスタイルを確立してしまっている方なので
「基礎から」と言っても並大抵のことではありません。

それでも、時々「も~、これが限界だ~」とガックリしながらも
「クラシック音楽をきれいに弾きたい」という熱い思いでコツコツと練習を積み
シューマンの「子供の情景」全曲、グリーグの抒情小曲集、
ベートーヴェンやモーツァルトのソナタ、ショパンのワルツなど
たくさんの曲を丁寧に仕上げていきました。

「でも、これを人前で弾く自信がない…」
人前で演奏することを仕事にしている人が、そんな弱音を吐きました。

「教室のコンサートに出てみたいけれど
自分も教室を開いている立場上、実名で出るのはちょっとねぇ…
偽名で出てもいいですか?」


「いいですよ~。では、上の名前だけ変えて…
<渡邊淳一>っていうのはどうですか?
みんなプログラム見たら、あの作家だと思ってビックリしちゃうわ。」


「いいですね~。それでお願いします!」

毎週ライブでピアノを自由に操る渡邊さんですが、
教室のコンサートでは毎回、他の生徒さん以上に緊張されていました。
楽譜どおりの音を弾かなければならず、
そして私がレッスンしたさまざまなことが頭をよぎると
指が思うように動かなくなると言って、もどかしさを感じていたようです。

それでも、渡邊さんがプロのジャズピアニストだと知らない生徒さん達からは
「渡邊さんのように丁寧に弾けるようになりたい。」
「渡邊さんは、自分の世界をもっている。あんなふうになりたい。」と評判で
ジャンルは違っても、彼の持つ個性豊かな音楽の世界は
十分魅力的に表現されていました

そんな渡邊さんが、先ほど亡くなられたという知らせが届きました。

ここ2年ほど、病気で何度か入院され
そのたびにどんどん小さくなっていらしたので心配していました。
 
去年12月、レッスンの直前に、いつもはメールでやりとりするのに
わざわざお電話をくださり、体がきつくてレッスンに行けそうもないということで
「また体調が戻ったら予約入れさせてください」とお話ししたのが
最後になってしまいました 

レッスン室で一緒に過ごした時間は、貴重な思い出。
一緒に仕上げた曲は大切な宝物。

あのちょっとJazzyなクラシックが聞けなくなるのは本当にさびしいです。

心よりご冥福をお祈り致します 
                    渡邊さん

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